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害虫大辞典 日本昆虫学会名誉会長 安富和男氏 監修

害虫辞典

(2)ハチの仲間 

まだ美しい花のない時代、ハチは樹木にとまっていた
ハバチ(葉蜂)やキバチ(木蜂)は起源の古いハチで、今から2億年以上前の
中生代の初め頃オナガキバチの成虫地球に現れました。 その時代はまだ美しい花の咲く植物はなく、訪花性のミツバチやクマバチは出現していません。
ハバチやキバチは腰にくびれのない「広腰亜目<ひろこしあもく>」に属し、産卵管が毒針の役をしない「刺さないハチ」です。ハバチの産卵管はのこぎり状に変形しており、これで植物に傷つけて卵を産みます。また、キバチの産卵管は角<つの>状を呈し、堅い樹木に孔を掘って卵を産みこみます。英語でハバチをソーフライ(sawfly)、キバチをホーンテイル(horn tail)というのは産卵管の特徴に由来したものです。
ハバチやキバチの仲間は世界で1万種、日本から約700種記録されており、植物の葉や茎を食べて育ちますが、ヤドリキバチ類は他の昆虫に寄生するハチです。幼虫は1種類の植物を寄生とする単食性の種類が多く、寄生植物の範囲はコケ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物に及びます。幼虫の生活様式は多様で、単独生活者のは集合して葉を食べるもの、材、茎実、葉、花の中に潜るもの、虫<ちゅう>えい(虫こぶ)を作るものがあります。
幼虫はイモムシ型で、3対の胸脚<きょうきゃく>と5対以上の腹脚<ふくきゃく>をもっていますが、茎、木の幹や葉の中に潜る幼虫では腹脚の退化が見られます。成虫の食性は種類によって違い、羽化後何も食べずにメスが産卵を終えるものや、ハムシやゾウムシを捕食しながら長期間にわたって産卵する種類もあります。ハバチやキバチの多くは植物を加害する農林害虫です。

害虫の天敵として価値の高い益虫、寄生蜂
寄生蜂(ヤドリバチ)の仲間は腰にくびれをもつ細腰亜目<ほそこしあもく>に属し、スズメサムライコマユバチの繭非常に多くの科や種類が含まれています。寄生蜂のくらしは多様を極めていますが、共通点は卵からふ化した幼虫がいずれも寄主<きしゅ>を食べて成長し成虫になることです。寄主としては、いろいろな昆虫の卵、幼虫、蛹、成虫が選ばれ、それぞれの寄生蜂は特定の寄主に寄生するのが普通です。卵を専門に寄生する種類も多く、卵寄生蜂<らんきせいほう>と呼ばれています。
寄生蜂の多くは寄主の体表や体内に産卵しますが、なかには食物と一緒に寄主の体内に卵を呑みこませる種類もあります。また、17の寄主に一匹だけの単寄生 と複数育つ多寄生の種類とがあります。
寄生蜂は害虫の天敵として価値の高い益虫です。とくにコバチの仲間は体長1mmそこそこの微小なハチですが、害虫の生物的防除に数々の成功を収めてきまし た。ミカントゲコナジラミに対するシルベストリコバチ、果樹や茎の害虫ルビーロウカイガラムシに対するルビーアカヤドリコバチの成功例は有名です。最近では、トマトの害虫オンシツコナジラミ防除用にオンシツツヤコバチが生物農薬として販売されています。また、ゴキブリコバチはゴキブリの卵に寄生する卵寄生蜂です。