害虫大辞典 日本昆虫学会名誉会長 安富和男氏 監修
害虫辞典
カ(蚊)
人の血を吸うのはメスの蚊 |
棒
ふりに似た動きから名付けられた幼虫"ボウフラ" 夏の気温なら卵期間は2日間です。イエカやヤブカの幼虫(ボウフラ)は水面で腹端の呼吸管から空気を取り入れて呼吸し、腐植 質や微生物を食べて育ちます。幼虫は約1週間で4齢を経過して蛹になり、2日後に成虫が羽化します。蛹の呼吸管は胸背部に1対あり、これを鬼の角に見立て てオニボウフラと呼ばれています。また、幼虫をボウフラと呼ぶ語源は泳ぎ方を「棒ふり」に見立てたものです。 ボウフラの発生源は種類によって違い、コガタアカイエカやハマダラカは水田のような広い水域、ヤブカの仲間は狭い溜まり水で育ちます。広い場所で育つ種類 ほど、成虫になってから遠い距離まで飛翔していくようです。 |
蚊には「昼の蚊」と「夜の蚊」があります。ヒトスジシマカなどのヤブカ類は昼間から夕方にかけて吸血活動をおこない、イエカ類やハマダラカの仲間は夕方か ら夜間に活動します。しかし、近年、蚊の行動時間に異変が起こっています。蛍光灯で明るく照明された室内では、夜になってもヒトスジシマカが吸血にくるの です。以前の電球に比べて蛍光灯の光は昼光に近く蚊の目によく感ずるため、夕方の時間が延長して昼の蚊と夜の蚊の交代を狂わせてしまいました。
蚊の唾液には痛みを和らげる局所麻酔成分が!
蚊の口器は羽化のとき大きな変化をとげます。幼虫時代の咀嚼口(噛んで食べる口)から吸収口(血液や蜜を吸う口)に変わるのです。口吻は一本の細い針に見 えますが、下唇、上唇、一対の大顎、一対の小顎と舌状体(舌)という七つ道具から構成されています。下唇は鞘になり、その中に上唇、大顎、小顎、舌が包み 込まれた構造です。吸血のときには、まず小顎先端の鋸歯で毛細血管を切って血を吸いとります。吸血をしないオスの口器はそのしくみを持っていません。 メスは血を吸う前に唾液腺からの唾液を肌に注入しま す。唾液には凝血を防ぐ酵素や痛みをやわらげる局所麻酔剤が含まれているので、蚊は人に気づかれずに吸血できます。血を吸われたあと赤くはれて痒くなるの は、蚊の唾液でアレルギー反応を起こすためです。
メスの蚊は血液と花の蜜を別々の器官に送りこむしくみを備えています。血液は中腸へ、蜜や果汁は盲嚢(そ嚢)へと、それぞれを選別して流すことが可能で、 これを「流路変換の機構」と呼んでいます。